『サクラ』
 結婚相談所から紹介され、今日もまた見合いをしているベン。相手の女性の亜希がサクラであることを見破った。だが、相手はサクラであることを認めようとはしない。ベンちゃんがあの手この手で問いただしても、なかなか本性を現すことはない。やがて、詮索に疲れたベンちゃんが『プロジェクトX』話をはじめると・

 これも実際にサクラ(のようなこと)をやっている人に会うことができたんです。そういう場合でも、エピソードをそのまんま使うということは、ほとんどありません。というか使えないんですよね。エピソードが痛すぎて。だからなんだろう、その人が持っている雰囲気や、サクラをやっている事を、どんなふうに自分の中で処理しているのか? ということが、一番の興味であり、観察してしまうところなんです。そして、そのサクラを成立させている環境はどうなっているのか? 二重、三重の防御システムに守られているはずです。そのあたりの話は聞きますが、これもまた、なるほどね、で終わってしまいます。そういう仕組みを暴くことにもやはり私は興味が持てないようなのです。そして、この話の後半に出てくる『プロジェクトX』ですが、この頃にはすでに本も何冊か出版され、団塊の世代はみんな見て泣いている、といった雑誌の記事も数多くでていました。けれども、そうはいっても知らない人は知らないんです。ほとんどのお客さんが見たことのある番組であっても、生活のサイクルが違ったりすれば、どうしても何割かのお客さんは「そんなの知らない」ということになるわけです。最近はなくなりましたが、アンケートなどにも「TV番組の話というのは、みんながみんな分かっているわけではないのでは?」というものがありました。ここで不思議なのですが「話の途中で出てきたTV番組を知らないので、興味が半減した」というのはあまりなくて、知っている人が「知らない人もいるのでは」と書いてくれるんです。それも重々わかってはいます。問題なのは、知ってるかどうか、ということよりも、その話をしている二人の間の「熱」がお客さんに伝わっているかどうかということなんです。話がトリビアルであればあるほど、話の内容がわからなくても、二人の関係性だけでも充分観ていられるものでなければなりません。この二人がこんなに熱く話しあっているのだから、たぶん、話に出てくるそれは、きっとおもしろいものなんだろ? ということでいいのです。そして、もしも、その話していることの固有名詞を知っていれば、さらに楽しめる、ということでいいと思っています。